フジ・メディア・ホールディングス(FMH)と投資家・村上世彰氏側の間で交わされた「議決権拘束合意」の解釈をめぐり、2026年6月2日、東京地方裁判所はFMHの申し立てを認め、村上氏が関与する投資会社ATRAに対し、6月の定時株主総会における議決権行使を禁じる仮処分を決定した。総会をわずか2週間後に控えたタイミングでの決定に、市場は大きく注目した。
発端は2025年1月にさかのぼる。フジテレビの元タレント・中居正広をめぐる女性トラブルへの対応が問題化し、トヨタ自動車を含む大手企業が相次いでCM差し止めを発表。撤退企業は100社を超え、2025年3月期の広告収入は従来計画を233億円下回る見通しとなり、FMHは2008年の持株会社移行後、初の単体赤字に転落する見込みとなった。この経営危機のさなかに株主として存在感を強めたのが村上世彰氏だった。
村上氏の長女らが関与する投資グループは2025年4月時点でFMH株の保有比率を9.8%まで買い増し、同年7月には旧村上ファンド系の保有比率が14%に達した。村上氏側は、フジテレビの持株会社が抱えるサンケイビルなどの不動産事業への依存構造が本業のメディア・コンテンツ事業への成長投資を阻害していると主張し、不動産事業の分離・売却を求める圧力をかけ続けた。
2026年2月3日、FMHは発行済株式の34.37%を上限とする2350億円規模の自社株買いを発表した。村上氏側が保有していた約18%の株式を買い取る形で、市場では「FMH側の全面降伏」との評価も出た。この自社株買いにあたり、村上氏側はFMHとの間で「配当を受ける以外の株主権を行使しない」という合意を結んでいた。ところが、その後に村上氏側の投資会社ATRAが新たに取得した株式について、FMH側は「議決権を行使しない旨の確約が得られていない」と主張。村上氏側は「ATRAはそもそも合意の対象外」と反論した。村上陣営のFMH株保有は合計4.62%。うちエスグラントコーポレーション分(1.31%)と野村絢氏分(1.76%)は和解が成立したが、ATRA分(1.54%)についてだけ決着がつかないまま総会期日が迫り、FMHが仮処分を申し立てた。物言う株主の議決権が契約を理由に裁判所によって凍結される異例の事態となり、株主間契約の法的強制力をめぐる議論を呼んだ。