旧ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏による性加害問題で、被害補償にあたるSMILE-UP.への申告者は1000人を超え、581人に補償金が支払われた。一方で在籍や被害が確認できないとして補償対象外とされた申告者もおり、補償の線引きをめぐる訴訟も起きている。

問題が大きく動いたのは2023年3月、英BBCがドキュメンタリー番組で喜多川氏の性加害疑惑を取り上げたことがきっかけだった。元所属タレントらによる告発が相次ぎ、同年5月には外部専門家による「再発防止特別チーム」が設置された。座長を務めた林真琴前検事総長らのチームは8月29日に調査報告書を公表し、喜多川氏による性加害の事実を認定。藤島ジュリー景子社長の辞任などを提言した。

9月7日の記者会見でジュリー氏は社長を退任し、東山紀之が新社長に就任。被害者への補償を進める方針を示した。10月2日の会見では社名を「SMILE-UP.」に変更し、被害補償に専念する会社と、タレントのマネジメントを行う新会社「STARTO ENTERTAINMENT」に分離することが発表された。喜多川氏が1962年に創業し、SMAPや嵐など国民的グループを輩出した巨大プロダクションは、創業者の性加害によって解体的な再編を迫られた。

補償の受付は長期化している。SMILE-UP.の発表によると、2026年9月30日時点で補償申告は1048名にのぼり、このうち587名に補償内容が通知され、581名に補償金が支払われた。一方、事務所への在籍や性被害が確認できなかった231名には補償を行わない旨が連絡された。補償を求める訴訟も国内外で複数起こされており、2026年9月24日には東京地裁が、喜多川氏から性被害を受けたとしてSMILE-UP.に約900万円の損害賠償を求めた男性の請求を棄却する判決を出した。裁判長は「性加害が存在したと認めるに足りる証拠はない」と判断した。

一連の問題は、長年にわたりメディアやスポンサーが沈黙してきたことも含めて、日本の芸能界の構造的な病巣を露呈させた。補償の完了と真相の解明には、なお時間がかかるとみられている。

告発の連鎖は2023年4月、元ジャニーズJr.の岡本カウアンらが日本外国特派員協会で実名での被害を訴えた記者会見を開いたことで加速した。同年8月には国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が来日し、記者会見で「深刻な人権侵害」があったとの認識を示した。藤島ジュリー景子氏は同年5月に動画で「心よりお詫び申し上げます」と謝罪。9月7日の記者会見では質問者を選別する「NGリスト」の存在が発覚して批判を浴び、10月2日の会見で改めて陳謝した。

新体制では東山紀之が社長に就任すると同時に年内での芸能活動引退を表明。タレントマネジメントの新会社STARTO ENTERTAINMENTの社長には福田淳が就いた。補償業務に専念するSMILE-UP.は被害者救済委員会による認定作業を続けているが、申告者の中には在籍確認ができないとして補償対象外とされた人々もおり、認定の透明性をめぐる議論は続いている。

補償の財源について、藤島ジュリー景子氏は2023年9月の会見で私財の投入も辞さない姿勢を示した。SMILE-UP.は被害補償が完了した後に廃業する方針を掲げており、補償業務に専念する特異な会社として存続している。一方、申告者の中には事務所への在籍が確認できないなどの理由で補償対象外とされた人々もおり、認定基準の開示を求める声が上がっている。喜多川氏の性加害を長年見過ごしてきたメディアやスポンサー企業の責任を問う議論も続いている。

旧ジャニーズ事務所のタレントの多くは新会社STARTO ENTERTAINMENTに移籍し、活動を継続している。グループ名の変更を余儀なくされた例もあり、性加害問題の影響は現在もエンターテインメント業界に残っている。SMILE-UP.による補償は長期戦の様相を呈しており、申告者の中には高齢化や健康問題を抱える人も少なくない。

一連の問題は、日本の芸能界における権力構造の歪みを露呈させた。BBCの報道をきっかけに海外メディアの注目も集まり、日本のメディアの沈黙が国際的に批判されたことも、業界の体質改善を促す圧力となった。補償の完了と再発防止策の実効性が、今後の焦点となっている。