中古車販売大手「ビッグモーター」の保険金不正請求問題は、2023年に日本社会を震撼させた企業不祥事だ。2021年秋、社員の内部通報により「上長の指示で本来、自動車の修理代を実費より高くして、その費用を保険会社に水増し請求している」ことが判明した。14万円前後の利益を乗せることがノルマとして課されていたという。
2023年7月5日、ビッグモーターは保険金不正請求について認め、同18日には第三者委員会による調査報告書の全文が公開された。そして25日には突如として兼重宏行社長の会見が行われ、兼重宏行社長と兼重宏一副社長の辞任が発表された。新社長には和泉伸二専務取締役が就任した。
関係者への取材で分かったことは、過去5年間だけでも水増し請求を含めた各種の不正請求分は複数社の合計で100億円近くになると言われている。表面上は損保が「被害者」になっているように見えるが、現場では不正請求であることに気づいていたのではないかという声が確実に増え、それでも厳しく取り締まらなかった実態が判明した。
では、なぜ不正請求だと分かっていて“黙認”してきたのか。その背景には、損保が不正請求を“黙認”する代わりに、ビッグモーターから自賠責保険の獲得という見返りを得ていた密約があった。「入庫1件につき自賠責5件」という取り決めで、事故車の入庫をビッグモーターに誘導してくれた保険会社には、見返りとして5台分の自賠責保険をその保険会社と契約するという仕組みだ。
金融庁は8月、損害保険ジャパン、東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和など7社に対し、ビッグモーターの不正請求をめぐる報告命令を出した。第三者委員会の調査報告書は、兼重社長の個人商店的なワンマン経営が事件の背景にあったと指摘している。この事件は、自動車保険業界全体の構造的な問題を浮き彫りにし、損保各社への返還請求や業務改善命令へと発展した。