かつて日本最大の中古車販売店だったビッグモーターが、自動車の修理代を実費より高く水増しし、損害保険会社に保険金を不正請求していた事件。2021年秋、社員の内部通報により「上長の指示で、本来の修理代より高い金額を保険会社に請求している」ことが判明した。1件あたり14万円前後の利益を上乗せすることがノルマとして課されていたという。

2023年7月18日、第三者委員会による調査報告書が公表され、同月25日に開かれた記者会見で創業者の兼重宏行社長と息子の兼重宏一副社長の辞任が発表された。報道によると、過去5年間だけでも水増し請求を含めた不正請求は複数社の合計で100億円近くに上るとされる。損保各社は当初「被害者」として振る舞ったが、現場では不正に気づきながら見逃していたのではないかとの指摘も上がった。

損害保険ジャパン、三井住友海上、東京海上日動、あいおいニッセイ同和の大手4社の調査では、ビッグモーターによる約6万5000件の不正請求が確認された。特に損害保険ジャパンについては、不正を黙認する見返りにビッグモーターから自賠責保険の契約を獲得していた「共犯関係」があったと報じられ、保険業界全体の体質にも批判の目が向けられた。金融庁はビッグモーターの保険代理店登録を取り消す行政処分を下した。

事件後、ビッグモーターは総合商社の伊藤忠商事に買収され、2024年に「WECARS(ウィーカーズ)」として再出発。負債の処理は別会社「Balm」が担うことになった。しかし、損保各社との損害賠償をめぐる調整は難航し、約6万5000件のうち合意に至ったのはわずか1700件程度にとどまるとも報じられた。

この事件は、過度な成果主義とノルマ至上主義がもたらした組織的不正の典型例として、経営学の教材にも取り上げられている。創業者のワンマン経営が生んだ「死刑、死刑、死刑」といったパワハラまがいの社内文化も明るみに出て、日本企業のガバナンスをめぐる議論に一石を投じた。