2015年に発覚した東芝の不正会計問題。経営トップが「チャレンジ」と称して達成困難な利益目標を現場に強いた結果、7年間で2千億円超の利益が水増しされていた。歴代3社長が引責辞任し、約73億円の課徴金、上場廃止へと至る日本を代表する企業不祥事となった。
2015年2月に証券取引等監視委員会の調査が入り、4月に東芝が公表。5月には上田廣一元東京高検検事長を委員長とする第三者委員会が設置された。7月20日に公表された報告書は、2008年度から2014年度第3四半期までの税引前利益で1518億円の水増しがあったと認定した。内訳は、インフラ事業の工事進行基準の悪用で477億円、半導体事業の在庫評価で360億円、パソコン事業の部品取引(バイセル取引)で592億円など。東芝自身の追加調査と監査法人の再監査を経て、最終的な修正額は約2248億円に達した。
報告書は、西田厚聰、佐々木則夫、田中久雄の歴代3社長が「チャレンジ」を通じて不正を誘発したと認定した。達成困難な目標を「チャレンジ」と呼び、数字合わせに追い込まれた現場が損失計上の先送りなどに手を染める構図だった。3社長はそろって引責辞任した。2015年12月、金融庁は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で約73億円の課徴金納付を命じ、9月には東証が東芝を特設注意市場銘柄に指定した(2017年10月に解除)。
その後も米原発子会社ウェスチングハウスの巨額減損が重なり、2017年3月期には債務超過に転落。虎の子の半導体メモリ事業(現キオクシア)の売却などでしのいだが、2023年11月に日本産業パートナーズ(JIP)連合による公開買付けが成立し、同年12月20日に上場廃止となった。74年に及ぶ上場の歴史に幕を下ろした東芝の事件は、「上司の意向に逆らえない企業風土」が生んだ組織的不正として、今なお企業統治の教訓として語り継がれている。
東芝の苦境は不正会計だけではなかった。2006年に買収した米原発子会社ウェスチングハウス(WH)が2017年3月に経営破綻を申請し、数千億円規模の損失を計上。2017年3月期には債務超過に転落した。虎の子の半導体メモリ事業を切り離して売却(現キオクシア)することで上場維持を図ったが、アクティビスト(物言う株主)との対立も激化し、経営の混乱が続いた。
2023年9月、日本産業パートナーズ(JIP)連合による公開買付けが成立し、同年12月20日に上場廃止。1875年の創業にさかのぼる名門電機メーカーは、74年の上場の歴史に幕を下ろして非公開化された。2026年にはモーター大手ニデックの不正会計問題が発覚し、「東芝型」の組織的不正との比較で再び注目を集めるなど、東芝事件は日本企業のガバナンスを問い続ける教訓となっている。
第三者委員会の報告書は、東芝のカンパニー制や成果主義の行き過ぎが「チャレンジ」の圧力を生んだ構造的問題だと指摘した。「上司の意向に逆らうことができない企業風土」の中で、監査委員会や内部監査部門、経理部門のいずれも不正の発見・防止に機能しなかったことも明らかにされた。
東芝事件は2011年のオリンパス粉飾決算事件と並ぶ平成の企業不祥事の代表例とされる。2026年に発覚したニデックの不正会計問題でも、創業者を起点とする過度なプレッシャーが不正の原因と指摘され、「東芝型」の構図との類似が報じられた。巨大企業の組織的不正は、経営者の倫理観と内部統制の両輪が欠かせないことを示し続けている。
非公開化後の東芝は、島田太郎社長のもとで再建を進めている。エネルギーやインフラ、デバイスなどの事業に注力し、選択と集中による収益力の回復を目指している。切り離された半導体メモリ事業のキオクシアは2024年12月に東京証券取引所プライム市場に上場を果たし、独立企業としての新たな歩みを始めた。
東芝事件の教訓は、2026年に発覚したニデックの不正会計問題でも参照された。創業者を起点とする過度なプレッシャーが不正を生む構図は「東芝型」と報じられ、業績至上主義の危うさが改めて指摘された。名門企業の転落は、日本企業のガバナンス改革の必要性を示す歴史的な事例となっている。