2017年10月、大相撲の横綱・日馬富士が鳥取市での酒席で平幕・貴ノ岩に暴行を加え頭部を負傷させた事件。11月末に引退を表明し、傷害罪で罰金50万円の略式命令を受けた。朝青龍以来となる現役横綱の不祥事は、角界の暴力体質に再び厳しい目を向けさせた。
2017年10月25日夜、秋巡業中の鳥取市内のラウンジで、白鵬らモンゴル出身力士ら13人が集まる酒席が開かれていた。白鵬の説教が一段落したところで貴ノ岩がスマートフォンをのぞいたことに日馬富士が激高し、素手やカラオケのリモコンで貴ノ岩の頭部を殴打した。貴ノ岩は頭部裂傷などのけがを負い、その後2場所連続で休場した。10月29日、貴ノ岩側は鳥取県警に被害届を提出。11月14日に報道で事件が発覚し、日馬富士は九州場所を途中休場した。
11月29日、日馬富士は日本相撲協会に引退届を提出し、記者会見で謝罪した。日本国籍を取得していなかったため年寄名跡を襲名できず、角界を去ることになった。12月11日に鳥取県警が傷害容疑で書類送検し、12月28日に鳥取地検が略式起訴。2018年1月4日、鳥取簡裁は傷害罪の上限額である罰金50万円の略式命令を出した。相撲協会の危機管理委員会の報告書では、ビール瓶での殴打はなかったことなども認定された。
皮肉にも被害者の貴ノ岩自身も2018年12月に付け人への暴行が発覚して引退に追い込まれた。現役横綱の暴力による引退は2010年の朝青龍以来で、角界ではその後も貴ノ富士や北青鵬らの暴力問題が相次いだ。日馬富士の事件は、相撲界にはびこる暴力体質と閉鎖的な組織文化を象徴する出来事として記憶されている。
日馬富士はモンゴル出身で2012年に第70代横綱に昇進。朝青龍、白鵬に続くモンゴル出身横綱として活躍した。事件当日も同席していた白鵬は、日馬富士を制止して一度は室外に出たとされる。相撲協会の危機管理委員会の報告書では、事件の発端や暴行の詳細が認定され、協会の対応の遅れも指摘された。
事件をめぐっては、貴ノ岩の師匠だった貴乃花親方の対応も問題視され、2018年1月に理事を解任される事態に発展。貴乃花親方は同年10月に相撲協会を退職した。角界ではその後も2019年の貴ノ富士、2024年の北青鵬と暴力問題が相次ぎ、協会は暴力行為への厳罰化を進めているが、閉鎖的な組織文化の改革は道半ばだ。
日馬富士は引退後、母国モンゴルで学校運営や慈善活動に取り組んでいると報じられている。日本国籍を取得していなかったため親方として角界に残る道はなく、土俵を離れた後の第二の人生を歩んでいる。
角界の暴力問題はその後も収まっていない。2019年には十両の貴ノ富士が付け人への暴力で引退、2024年2月には幕内の北青鵬が弟弟子への暴力で引退し、師匠の元横綱白鵬は監督責任を問われて2階級降格の処分を受けた。2026年2月には元横綱照ノ富士の伊勢ケ浜親方による弟子への暴力も発覚し、協会は事情聴取に乗り出した。日馬富士事件から10年近くを経ても、角界から暴力はなくならない現実がある。
2025年1月には元横綱照ノ富士が現役を引退し、伊勢ケ浜親方として後進の指導にあたっていた。しかし2026年2月、その伊勢ケ浜親方自身が弟子の幕内・伯乃富士に暴力を振るったことが発覚。親方は自ら協会に報告したが、日本相撲協会は2026年4月の臨時理事会で2階級降格と報酬減額の処分を決めた。
日馬富士事件から10年近くを経ても、暴力問題が繰り返される背景には、閉鎖的な部屋制度や上下関係の厳しさがあると指摘される。協会は研修や相談窓口の設置を進めているが、実効性を疑問視する声も根強い。国技としての信頼をどう取り戻すのか、角界の課題は続いている。